第3回 もしかしてライターさんですか?

「無愛想」が理由でキーパンチャーの派遣が更新されないと知らされた私は、憂さ晴らしにずいぶんほったらかしにしていたブログを開いた。それはもう10年以上続けている個人サイトで、紙とペンがもったいないから登録しただけの、まったく頼りない動機で始めたものだ。

しかしながらそんな戯言にもたまにコメントしてくれる奇特な人がいる。

>> Domoさんってもしかしてライターさんですか?

 

これは大阪のブロガー・タネちゃんで、ちょくちょくこうしてコメントをくれるのだった。

 

そこで私は初めて、この世にそんな仕事があると知った。令和時代に「ライター」も知らなかったとは恥ずかしい限りだが、無気力にもくもくと下を向いて生きてきた私にとって、そんな横文字の仕事を知る機会はほんとうになかったのだ。

しかし、すごく久しぶりに胸が高鳴るのを感じながら「求人 和歌山 ライター」と検索した私はすぐに失望する。

ここは本州最南端。この町にそんなハイソサエティな仕事があるはずなかったのだ。

>> いえいえ!ライターどころかもうじき派遣切りで無職です^^

 

自分で打っていながら、そのコメントのせいで傷ついていた。

気をつけていないと鼻から絶え間なくため息がぬけていく。

私は一体いつまで実家の2階で、もうとっくに本来の用途を終えた「子供部屋」で、こうしてパソコンを弄りつづけるのだろう。

やれやれ、お風呂にはいらなきゃ。水垢に目くじらを立てる母がもうじき階段を登ってくる頃だ。

パソコンを閉じようとしたその時、ポコン、と間抜けな音が響いた。

>>うちの会社ライター募集するんですよ~、大阪来ちゃいません?笑

一階で母が何か言っている。古くなった床を軋ませる足音がだんだん近づいてくる。私はじっとパソコンを見つめたまま、えも言われぬ激情がへそのあたりからこみ上げてくるのを感じた。

なんかよくわからないけど、今だ!って。